「手、出して」と急かした様子に、新しい飴でも渡されるのか、と素直に応えた。
すると、綺麗な指先で一枚ずつ確認し、此方の手の平へ置き始める。
「これが口座振替の申請書、それから、日当の四万円」
呆気に取られながらも、今日は質問が多そうだ、と浮かべる合間を目掛けて声が飛ぶ。
「ねぇ、カメラは?」
「雨降ってるし、車に置いてある」
「ふーん、じゃぁ、今日はデートだね……」
軽く呟いた一言が、中心部の側面を、少しだけ刺した。
どうにか愛想笑いで取り繕い、不恰好な顔を隠すようにポケットへ詰め込む。
ふと隣から近付く気配に身構え、その時が来たのか、と僅かに足を引いていた。
「これ使って、無いよりマシでしょ、健ちゃんのお下がりだけど」
けれど、咲山璃乃は一方的にデジカメを押し付け、直ぐに入口の方へと歩き出す。
微かに笑った気もするが、傘さえ気にしない様子で前へ進み始める。
ここまで起きた出来事など重要では無く、顧みても此方に気を遣っているのが見えた。
たった五歳の差とは言え、互いの違いに不甲斐無さが沸き上がる。
「ねぇ、髭は何歳なの?」
「もうすぐ三十になる」
「ふーん……、髭爺だね」



