記念日を共に過ごし、将来を意識させようとする南穂とは"恋人"の間柄で、交際してから五年の月日が経つ。
これまでの長い付き合いに南穂が先を見据えるのは、当然のことだ、と分かっている。
けれど、一歩を踏み出すと隔たり、自分でも拠り所が見付けられず、現状維持のままで来ていた。
"恋人"として南穂に好意は有るが、最近は良し悪しが見えない。
それでも、確実に決断の時が迫られてる。
携帯をポケットに忍ばせてエンジンを切り、後部座席から傘を手に指定場所へと向かって行く。
約束の時間から既に五分を上回り、待たせたのは二十分以上の現実が待ち構えている。
肩を叩かれるだけで済む筈が無い、明日には海で浮いているかもしれない。
急な冷え込みが微かに持ち手を震わせていた。
「おはようございます、お髭さん」
差し出した中へ優しげな笑みを浮かべて来る。
「おはようございます……」
居た堪れずに繰り返し、尻すぼみの声に上の空を仰ぐ。
「ご飯、食べた?」
ふと見れば、その手には飴が握られ、今にも此方の口へ放り込む気がした。
「さっき食べた、牛丼屋で」
「誘ってくれたらいいのに、お髭さんは冷たいね」
咄嗟に答えたところで、残念そうな表情を浮かべながら、ポケットを探り出す。



