あの花が咲く頃、君に会いにいく。

そんな柴崎さんの未練には、高校の時から付き合っている奥さんと、小学生の息子さんが関わっていると教えてくれた。



「僕の未練は…もう一度妻と子供に会いに行くことなんだ。だけど、急に死んでしまった身でどんな顔をして二人に会いに行けばいいのかわからなくてね…。警察官なのに、こんなことにびびってて情けないよね。それでもどうしても会いに行けなくて、そうこうしているうちに期限はもう明日しか残っていなくて…」


「…え!?未練解消まで残り一日しかないってことですか!?未練解消しないと、悪霊になっちゃうんですよ!?」


「らしいね…。そこでお願いなんだけど、少しでも人がいてくれた方が心強いんだ。だからついてきてくれないかな…?」



チラリと楓を見上げる。無表情の楓は何を考えているのかよくわからない。


力になってあげたいけど、死んでしまっている私には何もしてあげられないし、かと言って楓にやってあげなよと言うのも違う気がする。


ただでさえ私のことで迷惑をかけているのに、これ以上負担をかけさせるのも…。



「…この後はバイトがあって無理なんで、明日なら…」


「…本当かい!?」


「え…?いいの、楓?」



断るんじゃないかとこっちが身構えていたものだから、あっさり了承した楓に驚く。



「見捨てるわけにもいかないだろ」



そうだ。楓はこういう優しい人だった。


柴崎さんは嬉しそうに何度も楓にお礼を言い、また明日の朝ここで待ち合わせることを約束してわかれた。



「あのさ、私、やっぱり家に戻る」


「え?」