「えっと…しばらくまたお世話になります…」



今にも消えてしまいたい気持ちで、目の前で大きくため息をつく楓を恐る恐る見上げる。


茅乃と最後の別れをしたのがついさっき。





「…もう紫音はいなくなっちゃった?」


「…いや、いるんだけど」



涙を拭っていた茅乃が驚いたように目を見開き、「ええ!?」と素っ頓狂な声を出した。



「えっとその、本とかでしか見たことないからよくわかんないんだけど、幽霊とかって未練?みたいなものを解消したら消えるんじゃないの…?」


「未練は最低一つ、最大で三つって決まっている。…つまり、早乙女の未練は一つじゃないんだろう」



楓がぎろりと睨んできて、あははと苦笑いをする。


まさか自分でも未練がまだあるなんて思わなかった。



でも記憶が全部戻った感じもしてなかったから、なんとなく納得してしまったんだけど、それは黙っておこう…。



「もう一つが何かとかわからないの?」


「そうだったらいいんだけど、早乙女はなぜか生きていた頃の記憶をなくしているんだ。だから、早乙女が考えそうなことを知っていたら教えてほしい」



茅乃はしばらく考える素振りをしてから、あ、と何かひらめいたようだった。



「多分だけど、紫音のお母さん絡みじゃないかな…。母子家庭だったし、それに…紫音のお兄ちゃん、四年前に亡くなってるんだ。それからすっかり紫音のお母さん塞ぎ込んじゃって、それを紫音がずっと支えてあげてたの。そのおかげで二年前くらいかな?普通に仕事に復帰するくらいには元気になったみたいだけど、紫音まで…」