「君の名前は?」


「私の名前、は…」



その時、ぽっと光が灯ったかのように、言葉が思い浮かんだ。



「…紫音(しおん)



…そうだ、私の名前は紫音だ。


だけど…。



「…それしか、わからない」


「自分の名前しか覚えてない、か…。てことは、未練もわからないの?」


「未練?どうして死んだのかどころか、自分の名前すらろくに覚えてないのに、そんなものわかるわけないでしょ。…もしかして、あなたが私の記憶をなくしたの?」


「ちょっと待ってよ、そんなこと僕ができるわけないでしょ。僕は死んでしまった人を導く役、つまりは案内人みたいなものだよ。人は死んだ時に、未練というものを残すんだ。もちろん、残さない人もいるけどそんなのはごくわずか。未練は最低一つ、最大は三つまでって決まっていて、すぐに叶えられるものもあれば、何日もかけないといけないものもあって、人それぞれなんだよ」


「…私は、本当に死んじゃったの?」


「ここにいるってことは、そうなるね」


「ここはどこなの?」



物が置いてあるわけでもなく、上下左右どこを見ても真っ白な空間がただただ終わらなく続いているだけ。


ちゃんと地に足をつけているのか、それとも浮かんでいるのかすらあやふやだ。