「すみませーん」



奥の鉢植えを交換していると、お客さんが来たのか店員を探す声が聞こえてきて慌てて表に出る。



「あの、恋人に贈る花束が欲しいんですけど…何かいいのありますか?」



二十代くらいの男性が恥ずかしそうにもごもごと口を動かしながら、首の後ろに手を当てた。



「そうですね、一般的な物ですとバラとかガーベラですかね。それぞれ本数によって花言葉も変わってくるし、恋人の方に向けてどういう気持ちで贈りたいのか考えて選ぶといいと思いますよ」



へぇ、と感嘆の声を漏らす男性に丁寧に説明をしながら、九月の少し冷たい風を肌で感じる。



早乙女が成仏した日から、もう十六年が経った。


俺は叔母さんの花屋で本格的に働かせてもらいながら、未練解消で困っている霊を気まぐれに手伝っている。



「楓くん、こっちの鉢植えと外に出してるやつ取り替えてきてくれる?」


「あ、はい」



叔母さんに指示された通り外に出て鉢植えを交換していると、「わあっ」と少し高めの女子の声が後ろから聞こえてきた。



「綺麗なお花ですね!すっごーい。こっちの道から帰るの初めてだったけど、来てよかった!」



隣に並びにこっと笑った女子高生の長い髪の毛がふわりと風に煽られて、どこか懐かしい匂いが鼻を掠めた。



「…おまえ、もしかして…」


「あー!何このお花!初めて見る!めっちゃ可愛い!」