あの花が咲く頃、君に会いにいく。

「…私の、未練…そんなものない」



天使様と名乗った三十代くらいの男の人が、困ったように笑いながら顔を覗き込んできた。



「でも、君には未練があるよね?自分の口から言葉にして、未練を言うんだ。僕たちから教えるのじゃ意味がないから…」


「ないって言ってるでしょ!さっさとあの世にでも地獄にでも、どこでもいいから送ってよ!」


「…未練があるなら未練を解消をしないと、向こうの世界には逝けないよ。そういう決まりなんだ。…ただ、一つだけ例外があって、例えばもう死んでしまった人と会いたい、みたいな絶対に無理な未練や、我が子が大きくなるまで見守りたい、みたいな長期間かかってしまうような未練とか、そういう解消が難しい未練に関しては本人が望めば向こうの世界に逝くことができる。だから君の未練ももしそうなら、現世に戻ることはなく本当に君の人生が終わるけど…どうする?ただしそれは未練をちゃんと認めないといけないよ」


「…私に未練なんて、ない」


「…そっか。とりあえず現世に戻るといいよ。君の気が変わるのを僕は待ってる。期限内に未練解消ができなかった場合は、悪霊化してこの世にずっとい続けることになってしまう。それだけは忠告しとくよ」



そうして現世に戻された私は、特にすることもなく学校に居座り続けた。


家に帰って、今まで散々迷惑をかけた両親の悲しんでいる姿を見たくなかったからというのもあった。



「今日で49日だけど…まだ未練を認める気はない?」


「…だから私に未練なんてない。それに、悪霊になったって構わない!」



天使様に背を向けて屋上に走る。



生きていた頃は少し走っただけで体調を崩していたのに、死んでからはその心配がないから楽だった。


死んでからの方が生きている時にできなかったことをすることができた。だから、まだここにいたいと、そう思ってしまったんだ。