LIBERTEーー君に

詩月が弾き始めたのは、詩月とミヒャエルがケルントナー通りで何度もデュオで演奏したブラームス/F.A.E.ソナタ スケルツォ ハ短調だった。

正確で呆れるほど真っ直ぐな癖のない演奏だ。

あっさりはしてはいない。

メリハリの効いた心地好い演奏だ。

とくに気になるのは、ミヒャエルが知っている詩月の演奏とは明らかに違っている。

「ウソだろ!?」

「本当に詩月が弾いて……別人みたい」

ーーこれが本当に安坂のブラームス協奏曲なのか? こんな芸当ができるものなのか?

ミヒャエルは普段と立ち姿まで違う詩月を身動ぎもせず、見つめている。

ーー親しい先輩の演奏を知っているからと言って、自分の演奏を封じこめ、先輩を真似て演奏できるものなのか? 

ミヒャエルには何がどうなっているのか、理解できなかった。

「前にエィリッヒから聞いた話だけど、詩月は宗月のショパンを完コピして弾いていたことがあるらしいよ」