LIBERTEーー君に

「君のチャイコンはなかなか魅力的だった。僕はあんな風には弾けない」

詩月の言い分を聞き、ミヒャエルはホッと胸を撫でおろした。

「チャイコンは演歌に似ているーー君の解釈は違うだろ。解釈が違うと演奏も違うよな」

「俺はーージプシーというか、流浪(さすら)い人を思い浮かべて演奏していた」

「なるほど。そういう解釈なら、もっと哀愁を強調して情感たっぷりに弾いていい。冒頭の重音、続くビブラート、見せ場が多い曲だ。本番で弾くのは1楽章だけ、10数分で、どれだけ聴かせるかだ」

「審査員も聴衆?」

「そうだろ。1ステージもらったんだ。思う存分、弾けばいい」

「お前は面白いな。お前にとっては教授も審査員も聴き手なんだな」

詩月は「はあ?」と言いたげに、目線を上げた。

ミヒャエルの今にも笑い出しそうな顔を見て「何が可笑しいんだ」と呟いた。