LIBERTEーー君に

「お前のヴァイオリンを弾いた時、思ったんだ。コンクールで弾くならチャイコンがいいってね」

「あの演奏を越えなきゃ、ファイナルへは行けないからな」

「お前は、サラッとそういうことを言うよな」

「事実だろ。まあ、コンクール出場したいと思わせるためにチャイコンのピアノ伴奏をしたんだけど」

あの時の演奏は会心の出来だったーーミヒャエルは演奏を振り返った。

あれを越える演奏を正直、想像できないーー胸の内で呟いていた。

詩月ならチャイコンをどう弾くのか、聴いてみたいという気持ちと、聴いてしまったら耳に残って自分のチャイコンが弾けなくなるかもしれないと思って恐くなった。

「恐いか……顔に書いてある」

詩月がミヒャエルを見上げ、ポツリと言った。

ミヒャエルはカウンターの隅にある銀色のトレーに手を伸ばし、自分の顔を映した。

念入りに見つめ、顔をゴシゴシ擦ると、詩月に向き直った。