LIBERTEーー君に

「詩月に、そういうの聞いてもムダだぞ。演奏し始めたら、どう聴かせるかしか頭にないんだから。生配信の時は、緒方にピアノも歌も聞かせてたんだぜ。なあ?」

ミヒャエルがカウンター越し、ビアンカと詩月に話しかけた。

「余計なことを言うな。恥ずかしい……」

「図星だろ」

「ーー課題曲は1次、セミファイナル、ファイナル。1週間で仕上げるから、そのつもりで」

詩月はミヒャエルの冷やかしをバッサリとスルーした。
 
「1週間? 無茶だろ」

「呑気だな。本番だと思って演奏しろ」

詩月はビアンカに耳打ちし、ブラームスヴァイオリンコンクールにミヒャエルが提出した曲のリストを開いた。

ビアンカは「とんでもないことを考える」と改めて思う。

ーー兵法三十六計の何って言ったっけ、ミヒャエルから聞いたんだけど……

ビアンカは空いた席のグラスを片付け、テーブルを拭いて回った。