LIBERTEーー君に

詩月は自分が、もし郁子の立場なら彼女のように頑張ろうと立ち直れただろうかと思った。

ーー腱鞘炎で練習時間の半減を強いられた時でさえ、押し潰されそうだったのに。腱鞘炎で無理をして疲労骨折までして、全く弾けなくなり1から、やっと弾けるまで頑張れただろうか

胸が苦しかった。

「周桜くん、あなたは、わたしの目標でいてね。あなたはあなたのままでいて。振り返らずに、前に進んでいて」

ーーん、わかった

詩月は何度も頷いた。

スマホを持ったまま、ピアノに向かい、ピアノの楽譜立てに、スマホを置いた。

ゆっくりと弾き始めたのは、「ROSE」。

BALの古いピアノでは何度も弾いた曲だ。

ベーゼンドルファーで弾くのは初めてだった。

狂った音しか出ない鍵盤を気にせずに、演奏できる解放感に、感情を思い切りこめた。

言葉では伝えきれない思いも、演奏でなら伝えられる気がした。