LIBERTEーー君に

ミヒャエルは「ああ」と短く返事をして、バックヤードに入って行った。

「あたし今日、詩月と連弾して感じたんだ。詩月の横にいるのは、あたしじゃないって。詩月のあんな真剣で、だけど楽しそうで優しい顔、初めて見た」

ビアンカは涙声だった。

「詩月がピアノで『ヴァイオリンロマンス』弾くとき、スゴく寂しそうなんだ。抱きしめてあげたいくらいに、スゴく寂しそうなんだ」

ビアンカの頬に涙が伝った。

「変だな、あたし。何で涙が出てるんだろ、可笑しいよね」

ビアンカは腕で涙を拭い、無理に笑ってみせた。

「今日の演奏は、俺も、エィリッヒも、宗月も、それに皆が驚いて感動したさ。詩月はコンクールの予備審査の課題曲を命令されて弾いてはいなかった。ここの、BALの客みんなに向けて、演奏したんだろう。ボロピアノがベーゼンドルファーに変わって、嬉しかったんだ。凄く嬉しかったんだ」