LIBERTEーー君に

エィリッヒは詩月の演奏に、思わず口にした。

ーーこれは宗月をも凌駕する演奏だ

エィリッヒはゴクリと喉を鳴らした。

宗月は詩月の圧倒的な演奏に、ピアノを弾く詩月の後ろに回りこんだ。

演奏する詩月の指をじっと見つめていた。

巧みに動く指と手首のグリップのしなやかさは、コンクールの課題曲を強制されて弾いているとは思えなかった。

ーーこれは聴かせる演奏だ。詩月の頭にエィリッヒの命令などない

宗月はまばたきも忘れて、詩月の演奏を聴いている。

「スゲェ。『熱情』の後に『木枯らし』を弾いているのに、全くぶれない」

ミヒャエルはカウンターの上に置かれた珈琲に、手を掛けたまま、客席へ運ぶのも忘れていた。

詩月の木枯しは、さらにセザール・フランクの前奏曲、フーガと変奏曲へと変わった。

「自由曲にセザールのフーガ……」

ハインツの呟きは、ため息と同時だった。

ーーバッハのフーガから始まり最後にフーガとは