LIBERTEーー君に

音、音、音の洪水だ。

怒涛が渦巻いていた。

続けて間髪入れずに、ショパン エチュード 第11番イ短調OP.25ー11「木枯らし」を弾き始める。

ショパンのエチュードでも最高難度と言われる曲だ。

留学間もない頃、詩月がBALで「周桜宗月への果し状だ」と弾いた曲だった。

宗月もユリウスも詩月がベーゼンドルファーを弾き始めた当初は和やかに、談笑しながら聞いていた。

詩月がベートーベンの熱情を演奏している途中から、彼らの目の色が変わった。

エィリッヒもハインツも予選審査用の演奏とも、つい数日までの演奏とも違う、詩月の演奏に驚いていた。

ミヒャエルもビアンカも鳴らない音を補い苦心惨憺していたボロビアノでは、気づくよしもなかった詩月の演奏を目の当たりにした。

「こんなに激しく力強い演奏をするピアニストだったの?」

ビアンカは何度も目を擦った。

「詩月に何があったんだ」