LIBERTEーー君に

鍵盤に触れた瞬間から、詩月の表情が一変した。

弾いてやろうじゃないか、明らかに挑む姿勢を感じさせる。

フーガと言うのは、1つの旋律を高さを変えて展開させていく楽曲形式のことだ。

「高さを変えて」と言うところがポイントで、同じ高さで追いかけさせるとカノンという形式になる。

フーガは主題が何度も追いかける形で現れる提示部と、自由に転調し音楽を展開させていく嬉遊部を交互に繰り返す。

詩月は曲を楽しみながら次に弾くソナタのために、指をじゅうぶん温めながら準備運動をも楽しんで弾いた。

詩月の顔には笑みが浮かんでいた。

曲は流れるように、自然にソナタへと変化した。

詩月が選んだのは、ベートーヴェンのピアノソナタ 第23番 ヘ短調 作品57「熱情」。

「熱情」は「悲愴」「月光」と並びベートーベンの3大ピアノソナタと呼ばれる。

最高傑作としても有名だが、難易度も上級だ。