LIBERTEーー君に

「詩月。エリザベートのDVD予選審査、課題曲と自由曲、満足のいく出来映えではなかったよな」

「はい」

詩月はエィリッヒから不意に言われて、体を硬くした。

「弾いてみるか?」

「えっ……」

詩月は急に何を言い出すのかと、エィリッヒを見上げた。

「後悔していただろ」

「それはそうだけれど、今さら」

「後腐れはないのか、すっきりしていないなら弾いてみろ」

エィリッヒの顔はいつもに増して険しかった。

「横浜にいる彼女が腱鞘炎で弾けない、そう知った後。練習に身が入らなくなった。俺はまだ許していないぞ」

詩月は腹の底に低い声がじんじんと響き、エィリッヒが本当に未だ許していないんだなと思った。

「わかった」

詩月は表情を変えず、ゆっくりとピアノの前に進み、腰を下ろした。

指を1本1本、念入りに慣らし、鍵盤を鳴らす。