「フリッツ・クライスラーコンクールとヨハネス・ブラームスコンクールーー」

「たしか審査は3次までで、6位までが入賞だったと思う。申請書提出の締切はどちらも4月末だ」

「直近すぎるだろ」

「下手にあれこれ考えて迷うよりマシだろ」

詩月が言うと、ピアノの裏側の席に座っていた周桜宗月がスクッと立ち上がった。

「今の演奏なら推薦できる。なあ、ユリウス」

ユリウスはウィーンでの詩月のヴァイオリンの師匠で宗月の友人だ。

ユリウスは名前を呼ばれ、顔を覗かせた。

「ああ、いい演奏だった。フランツ教授も納得するだろう」

詩月とミヒャエルは顔を見合せた。

「居るなら言ってくださいよ」

「聴いているとわかっていたら、今の演奏をしていたかね!?」

宗月は詩月とミヒャエルを交互に見てニッと、白い歯を見せた。

「刻限が迫っている。決断は急げよ」

ユリウスはポンとミヒャエルの肩を叩くと、メモを手渡した。