LIBERTEーー君に

曲を弾き終えると、どっと冷や汗が流れた。

「シレーナをここまで弾いた奴は、君が初めてだ。大学の先輩で学オケのコンマスをしている安坂さんでさえ、ここまでは弾けなかった」

詩月は感情の高ぶりを抑えつつ、拍手を送った。

「お世辞なら……」

ミヒャエルが言いけたが、詩月は即座に否定した。

「お世辞など言わない。やはり、君はソリストに向いている」

詩月はそう言うと、上着からペンとメモ帳を取り出した。

数十秒、こめかみに手を当て考えたかと思うと、サラサラと走り書きをした。

「9月に国内で開催されるヴァイオリンコンクールだ。詳細を調べてみるといい。今の演奏なら、確実に入賞できると思うけど」

詩月はさらりと言いながらミヒャエルに、メモを手渡した。

「コンクール……」

ミヒャエルは呟いて、メモを見る。