LIBERTEーー君に

ミヒャエルが詩月のピアノに、必死に食らいつこうと必死になっているだけなのではと。

ミヒャエルの形相が必死すぎて、可哀相にも思えた。

ミヒャエルはヴァイオリンを弾きながら、驚いていた。

詩月のヴァイオリンの強い癖、独特さの半端なさに苦戦していた。

低音と高音が同じ楽器から、本当に出ているとは思えなかった。

深く重厚で力強く太い音を出す低音部と、対照的に繊細で上品かつ女性的な音を出す高音部は、半人半獣のケンタウルスを連想させた。

その独特な音色が妖しいほど艶やかで豊かなためか、聴き手だけではなく、弾き手も惑わすと言われている。

「シレーナ」或いはセイレーンと呼ばれている理由だ。

ーーこんなヤバい楽器をどう弾けば、ケルントナー通りのヴァイオリン王子と言われるんだ

ミヒャエルは自分の力量で弾きこなせる楽器ではないと思った。