LIBERTEーー君に

その都度、黒鍵と白鍵を駆使し、半音上げたり下げたりして音を調節し、鳴らない音を補いながら演奏しなければならないポンコツなのさえ、もう頭になかった。

ビアンカはカウンター越しに2人の演奏を聴きながら、給仕や皿洗いどころではなくなっていた。

「面白くなってきた。本当にアタシがいつも弾いているボロピアノなの? それに詩月があんなに挑発的だなんて」

BALはいつもは昼間でも酒飲みたちで騒がしいのだが、詩月とミヒャエルの演奏で、さらに騒々しかった。

「ビアンカ。詩月はわざと挑発している。ミヒャエルにソリストの自覚をさせたいんだろ」

「ミヒャエルが詩月に敵うはずない」

「だろうな。でもミヒャエルは最初よりも、ずっと良くなってきた」

確かに、最初とは比べるべくもない。

でも……と、ビアンカは首をかしげた。

あれを良くなってきたと言うのだろうかと。