LIBERTEーー君に

「ローレライ」は詩月自身が日本で散々呼ばれていた名前だ。

詩月がコンクールに出場するたび、詩月の後の演奏者が調子を崩し本来の演奏ができなくなった。

女性の演奏者が泣き出してしまったこともある。

アイドルグループとコラボして化粧品のCMに出演した時もローレライと言われた。

詩月のヴァイオリン「シレーナ」の特性もあり、マスコミの格好の話題にされ、誹謗中傷もあった。

1年契約で共演した交響楽団では、元コンサートミストレスから、執拗な嫌がらせをされた。

ローレライだと言われた挙げ句、コンサートのプログラム曲の楽譜をすり替えられ、初見で演奏させられたこともある。

楽譜に赤ペンで派手に『お前はローレライだ』と書かれていたこともある。

泣いて逃げ出し何もかも投げ出してしまいたいと、何度思ったことか。

それでも耐え抜いたのは、詩月への母親や亡き師匠の思いだった。