LIBERTEーー君に

「ミヒャエル、それを使っていい」

詩月は座席に置いたヴァイオリンを指差した。

「シレーナを」

ミヒャエルは思わず目を見開いた。

座席に半ば放置されたように、無造作に置かれたヴァイオリンを見つめている。

ヴァイオリン作家ガダニーニが1758年に製造したヴァイオリンだ。

ミヒャエルは詩月の「シレーナ」が時価数千万円と言われているのを聞いたことがある。

コレクターの間では、値段はつけられないとまで言われる曰く付きのヴァイオリンだと、ヴァイオリン科の学生の噂にもなった代物だ。

「いいのか、俺が弾いても……」

「何か問題でも?」

詩月はたかがヴァイオリンだとでも言うように言ってのける。

こんな好機は2度とない、ミヒャエルは胸を踊らせながら、胸の鼓動が倍速で脈打っているのではと思った。


ヴァイオリンを持つ手が震え、冷たくなっていた。