「普段の君の演奏はよく知らないけれど、少なくとも君と奏でる演奏は、他のどの学生と合わせたより楽しい」

「毎回、お前の演奏に負けまいと必死だからな。でも、お前の……」

「自信を持て」

詩月はスクッと立ち上がり、ミヒャエルの肩に軽く触れた。

「ちょっと待て。人の話を聞かないな、お前は。俺がいくら頑張っても、ピアノ科のお前のヴァイオリンに及ばないのに」

詩月を見下ろすミヒャエルの瞳に、悔しさが滲んでいた。

「人と比べる必要が? 君の演奏には君にしか出せない君の味がある。君はソリストに向いている」

詩月は言うと腰を下ろし、ピアノの鍵盤をポンと鳴らした。

「1曲どうだ?」

言うが早いか、ピアノ伴奏を始める。

「知っている曲だろう?」

ミヒャエルは詩月に言われて、ヴァイオリンを持って来ようと踵を返した。