郁子が治療に専念するなら、自分が郁子にできることは「自分自身が何より音楽を楽しむこと」以外ないと思った。

「色々考えないことにしただけだ。音楽をただ楽しむーーその延長線上に希望はある」

詩月はポンと1つ、鍵盤を鳴らし笑ってみせた。

「待つのをやめて進むのか?」

「ああ。同じ道を目指す限り、緒方とは繋がっているからな」

ミヒャエルは「そうか、そうか」と2度頷いた。

「君はそろそろ進路を考える時だろう? 卒業後はどうするんだ?」

「オケのオーディションを受けているんだが、コンクール入賞履歴を選考対象にしているオケも多いようだ。大学推薦のオケも幾つか」

「君はソロでやっていくものと思っていたが」

「凡人の実力でソロは厳しいぜ」

「君は凡人ではないと思うが。自分を過小評価していないか?」

ミヒャエルは目を見開き、詩月を凝視し「はあ!?」と声を上げた。