LIBERTEーー君に

演奏を聴いてほしい人がいる。

共に演奏したい人がいる。

どんなに遠く離れていても、どんなに実力の差があっても、音を重ね合わせたい人がいる。

詩月は声に出して願いたかった。

どれほどの演奏者が手を挙げたとしても、その中に郁子が居なければ、意味がないとさえ思えた。

詩月が郁子と演奏したい曲は、決まっている。

初めて郁子のピアノ演奏を聴いた時のピアノコンクールで、郁子が弾いた曲だ。

詩月は郁子のピアノ演奏に舞台袖で、敗北感と悔しさで立っているのさえやっとだった。

ピアニストの父「周桜宗月」が得意なショパンの曲がコンクールの課題曲だった。

詩月は父親へのコンプレックスから、ショパンが大の苦手だった。

大嫌いで苦手なショパン、そのショパンの曲を郁子は詩月の目の前で見事に演奏した。

郁子は詩月にとって父親以外で唯一、敵わないとおもった演奏者だ。