詩月はお詫びのつもりで答えた。

「幾度か広場での君のピアノ演奏を聴いて、機会があれば弾いてもらおうと思っていたんだ。どうだろうか、お願いしても?」

司祭は穏やかな口調で話す。

「喜んで、弾かせていただきます」

「先ず、今日はゆっくり休みなさい」

「はい」

司祭と連絡先を交換し、教会を出ると広場の人通りは疎らになっていた。

「詩月、家まで送っていくよ」

ビアンカが撮影機材を乗せた車で、詩月をユリウス宅まで送った。

シュテファン広場での騒動が既に配信されていて、ユリウスは詳しい話を聞き出そうと、ビアンカを居間に通そうとした。

ビアンカは詩月をゆっくり休ませたほうがいいと、丁重に断った。

詩月のスマホも騒動の動画を心配し、何通もメールや着信が届いていた。

「とんだ災難だったな」

詩月は部屋に入るなりベッドに寝転び、何度もため息をついた。