詩月は此処と聞き、周囲をぐるりと見回した。

「教会?」

「そう、シュテファン寺院。司祭さまに頼んで休ませてもらったんだ。詩月、1時間半くらい寝てたんだよ」

「そんなに……」

「明日、ピアノを撤去するそうだ」

「そう、残念だな」

詩月たちが話していると、コツコツと足音が近づいてきた。

扉がキーィと軋む音を立て、白髪混じりで背の高い司祭が入ってきた。

「具合は如何ですか」

柔らかい声だった。

「大丈夫です、お世話をかけました」

詩月はスッと背筋を伸ばした。

「ずいぶんな騒ぎだったようだね」

「すみません」

「残念だ。演奏を楽しみにしていたんだが」

詩月は申し訳ないやら情けないやら恥ずかしいやら、様々な思いが溢れ、顔を上げられなかった。

「詩月、だったかね。ミサに1曲、演奏してもらえないかね」

「僕でよろしければ」