LIBERTEーー君に

男はポカンとして、詩月をみつめている。

「ミヒャエル、悪いな。君、ヴァイオリンは僕のを使うといい」

詩月はそう言うと、ビアンカの方を見た。

ビアンカは状況を察して、詩月から預かったヴァイオリンをケースごと、男に手渡した。

「調弦はしてある」

男性の顔は強張っていた。

「街頭演奏は? 初めてか? 審査員の前で演奏するより気持ちいいはずだ。何の制約もない。君の思い通り演奏すればいい」

詩月と男性のやり取りに、さらに人が集まり広場は騒然となった。

ざわめきはヒソヒソ声から、囃し立てに変わっている。

「君、名前は?」

「……ロ、ロベルト」

「セミファイナルに演奏したのはシューマンか?」

「そ、そうだ。シューマンのヴァイオリンソナタ1番」

ロベルトはおずおずと答えて、まだヴァイオリンをケースから取り出してさえいなかった。