LIBERTEーー君に

ミヒャエルがそう思って詩月を振り返った時、フードを目深に被り、詩月に近づく男が見えた。

男はゆっくりと詩月の側まで近づくと、いきなり両手でピアノを激しく叩き鳴らした。

凄まじい不協和音が響き渡った。

「ヴァイオリンかピアノか、はっきりしろと言っただろ!」

「唐突に、演奏妨害か」

「コンクール荒らしてもするつもりか? 周桜詩月」

「ああーーあの時の……」

詩月はセミファイナル、ミヒャエルとの演奏舞台へ向かう通路ですれ違ったコンテスタントだと気づいた。

声の調子から、まだ10代後半か20代半ばだと思った。

「聴衆の面前で言い争いはナンセンスだ。伴奏するからヴァイオリン演奏してみないか」

「はあ?」

「理解できなかったか? ブラームスコンクールのセミファイナルで演奏した曲、伴奏するから演奏してみろ。失望はさせない。セミファイナルの伴奏者より上手く弾いてやる」