LIBERTEーー君に

ミヒャエルは急いで駆け寄り、ヴァイオリンを構えた。

ブラームスコンクール対策に、繰り返し演奏した曲だ。

なのに詩月のピアノは初っ端から、コンクール対策の演奏とは違っていた。

「!? 詩月っ」

ミヒャエルが演奏を中断し、振り返ったほどだ。

「ミヒャエル。こちらは気にせず、思うように弾いていい」

ミヒャエルは詩月に言われて、演奏を再開したものの詩月がどう演奏するのか、気になってしかたなかった。

詩月はピアノを弾きながら、歌曲「雨の歌」の詩人クラウス・グロート の歌詞を思い浮かべていた。

ーー初めての香り、天からの露に
酔った花のように、心は楽に呼吸する
身震いのするほど冷たい、全ての雨滴が
降りてきて、この鼓動する胸を冷やし、
こうして、創造の聖なる営みが
私のひそやかな命に忍び入るのだ
雨よ降れ、降れ
あの昔の歌をもう1度呼び覚ましてくれーー