LIBERTEーー君に

新型ウィルスが拡大し始めた当初からの見慣れた光景だ。

10ヶ月近く続く光景なのに、なかなか慣れない。

顔が見えない、表情が掴めない。

それが毎回、不安を募らせた。

ウィルス感染を懸念して歓声も控え気味で、ジェスチャーも殆どない。

拍手の音のみだ。

詩月は演奏者の気持ちが解るだけに、曲が1曲終わるたび、拍手贈った。

詩月は伊達メガネを掛け、キャップを深めに被り待機していた。

「詩月、こっちはいつでもいいよ」

ビアンカが詩月の耳元に囁いた。

「うん。ちょっとウオーミングアップ」

詩月はヴァイオリンケースから素早くヴァイオリンを取り出した。

スッと数歩、前に出るとピアノ奏者の演奏に合わせて、ヴァイオリンを奏で始める。

ピアノ奏者はチラッと振り返り、演奏を再開した。

「ヴァイオリン、やたら上手くないか」