詩月が街頭演奏をする時、先ず気に止めることだ。

ブラームスコンクール終了直後に詩月がミヒャエル、貢とヴァイオリン演奏した「雨の歌」は、かなり聴き手を集めた。

評判も良かった。

何より、まだ記憶に新しい筈だ。

コンクール対策に、ミヒャエルとは何度もブラームスを演奏した。

ケルントナー通りのヴァイオリン王子の動画は、未だにアクセス数を増やしている。

詩月はビアンカの準備が整えば、いつでも演奏する覚悟はできている。

ミヒャエルは詩月の隣で何度も深呼吸を繰り返していた。

「1曲目は何度も演奏した曲だ。その後も君の知らない曲は演奏しない」

「あ、ああ。何でそんなに落ち着いているんだよ、お前は」

「……落ち着いて見えるだけだ」

詩月は胸に手を当てていた。

シュテファン広場を行き交う人々は、マスク着用で半分以上、顔が見えない。