シュテファン寺院のミサに参加し、味気ないなと感じたのは、詩月だけではなかった。

新型ウィルス拡大を避け、讃美歌も歌えない。

オルガンの演奏が厳かに響いた。

司祭の読む聖書は半分も耳に入ってこなかった。

「意外だったよ。詩月はカトリック教徒ではなかったんだな」

ミサ終了後、ミヒャエルがポツリと言った。

「詩月、始めるよ」

ビアンカは詩月とミヒャエルを急かすように、詩月の手を引いて、教会を出た。

ストリートピアノには既に先客がいて、演奏していた。

ビアンカは黙々と動画配信の用意をした。

前日にミヒャエルと最初に演奏するのはブラームス/ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番 ト長調Op.78「雨の歌」と決めた。

ミヒャエルの卒論「コンクール対策における街頭演奏の有効性と観客の好む傾向」を考えてのことだ。

最初の1曲で反応を観る。