LIBERTEーー君に

詩月は郁子の手の状態を聞いた後は、上の空だった。

「理久……僕は緒方の雨だれを聴いた時、自由で優しい演奏に癒されたんだ。父さんの演奏でがんじがらめだった僕のピアノを彼女が解放してくれた。だから、ずっと彼女のピアノが希望だったし、憧れだった。緒方に負けたくない、そう思ってずっと頑張って」

詩月は話しなから目頭が熱くなり、涙が溢れてくるのを肘で拭った。

「お前はそれでいいんだ、それでいい。郁子に同情も慰めもいらない。お前はお前のペースで立ち止まることなく進めばいいんだ、立ち止まらず迷わずに」

「でも……」

「同情するな。並走するな。足踏みをするな。郁子を信じろ」

突き放される疎外感に、理久との間に壁があるのではないかと思った。

「理久、でも」

「郁子を振り返るな。お前はお前のままで走り抜け」

詩月は理久が有無を言わせまいとしているのを感じた。

「いいな。わかったな」