LIBERTEーー君に

「話したくなかったんだろ。お前には頑張っている自分しか見せたくないんだろうな」

「何故そこまで意固地に……」

「『追いかけてこい』お前が郁子に言ったんだぜ。そんな相手に弱音を吐けるかよ。郁子にもプライドがあるんだ」

「『追いかけてこい』確かに言ったけれど、僕は緒方が腱鞘炎になるまで無茶をするとは思わなかった」

詩月は自分のひと言が、そこまで郁子を追いつめていたとは、露ほども思わなかった。

「郁子とお前の実力の差は、お前が思う以上に大きかった、そういうことだ。あの日、郁子は同じ曲を弾いてみて実感したんだ」

詩月は言葉がなかった。

「周桜くんはわたしの何歩も先を歩いていて、追いかけても追いかけても追いつかない。どれだけ頑張れば周桜くんに追いつくのーー腱鞘炎と診断された時、そう言って泣いていたんだ」

「そんな……」

「貢は郁子が落ち着いたのを待って、ウィーンに行っちまったし……」