LIBERTEーー君に

「うん、まあ。コンクールが延期になって、少し不安定で」

詩月は正直に話した。

「緒方と電話で話したら思ったより元気で、励ますつもりが逆に、元気をもらった」

「はあ、郁子が落ち込んでないって? 何でそう思った?」

「コンクールはエリザベートだけではない、手を治して挑戦すると」

「ったく。アイツ、どこまで強がっているんだか。郁子は腱鞘炎で痛み止め射ちながら練習していて、疲労骨折までしたんだ。半年経って、ようやく簡単な曲を弾ける程度」

「そんな……」

「骨折してしばらくは見ていられなかったぜ。『周桜くんに置いていかれる』と、泣きながら課題曲の楽譜を弾こうとしたり、何時間も眺めていたり。貢と主治医で説得して、腱鞘炎の治療とリハビリに専念すると決めたんだ。一時は休学も考えたんだが」


「……疲労骨折したことも、休学を考えたことも、緒方は何も言わなかった」