ーーヴァイオリンを弾いているのは貢ではない、俺の演奏にオーケストラも観客も振り向かせる

ミヒャエルの演奏はコンクールの呪縛から解き放たれたように感傷的だった。

感傷的だが、感情に溺れてはいない。

しっかりと進むべき道を見つめて、自分自身の生き場所を見つめて歩みを止めない流浪の民、ジプシーを奏でる。

彷徨いつつも勇敢で逞しく、愁いを希望へと昇華させていく。

孤独に耐え、歯をくいしばり疲労に耐え、疲労困ぱいした体に鞭打って歩き続ける、流浪の民の姿が、観客たちの目に浮かんだ。

激しく、物悲しく奏でられるヴァイオリンの音色に、啜り泣く声が聞こえた。

ミヒャエルは息苦しいほどの思いを音に託す。

これでもかと押し寄せる哀しみと、痛いほど胸に突き刺さる孤独を伝える。

どう思われようと構わないと思った。

どう評価されようと構わないと思った。

ただ思い切り、思いのままに、自分自身最高の演奏をしたいと思った。

観客席で聴いている詩月に、自分の会心の演奏を届けたかった。