ミヒャエルはこの後に及んで、何を迷っているのかと思う。

やることは決まっているのに、とーー。

ミヒャエルはパンパンと頬を叩き、気合いを入れた。

演奏しながら思い浮かべるのは、詩月の言葉と演奏だ。

強気強気で突き進み、1歩も引かない姿勢だ。

迷う気持ち、彷徨う思いがチャイコフスキーヴァイオリン協奏曲の主題と重なる。

心揺さぶる激しい感情と哀愁に、かき乱され胸が熱くなった。

ミヒャエルはオーケストラの演奏に埋もれまいと抗う。

孤独だと思った、ソリストは孤独だと初めて思った。

貢のような生真面目さも正確さも、必要ない。

詩月に煽られ、がむしゃらに演奏した、負けたくないという思いと、あの時の表しようのないワクワク感を思い出せ。

ミヒャエルは逸る気持ちのままに、思い切り演奏した。

先の貢の演奏との違いに、オーケストラが戸惑っていた。