「技術に頼るな」

「自分の実力を信じろ」

詩月は言いたい放題だった。

おまけに、詩月はファイナルの課題曲の練習にピアノ伴奏で付き合ったが、やりたい放題だった。

わざと演奏をずらしたり、わざと間違えたり、練習の邪魔をしているのかと思うことも、度々あった。

詩月が言うには、本番では何が起きるかわからない。

オーケストラと演奏がズレたり、オーケストラの誰かがミスしたり、或いは舞台音響がトラブルを起こしたり……。

そうしたアクシデントに狼狽(うろた)えず、冷静に対処しなければならない。

「ブラームスコンクール、勝ちに行く」

詩月はこの2ヶ月、そう言って貢とミヒャエルを引っ張ってきた。

だが、とミヒャエルは思う。

果たして詩月の言う「勝ちに行く」とは、「優勝」「入賞」なのか?

セミファイナル通過した後から、ずっと繰り返し考えていた。