LIBERTEーー君に

2ヶ月前、初めて詩月が聴いた貢の演奏とは明らかに違っていた。

胸焦がすようにオーケストラの演奏と掛け合い、言葉を交わしているようだ。

恋焦がれる相手に思いを伝えるようでありながら、激しくはない。

詩月が主張しないヴァイオリン演奏だと、酷評した演奏は、影も形も感じられなかった。

コンテスタントたちはコンクール開催中に急成長すると言われる。

詩月は貢のヴァイオリン演奏は、まさにその典型だと思った。

高校、大学続けて3年間、学オケのコンサートマスターを勤めた貢は、オーケストラがどう演奏してくるのかを判断し、オーケストラとのぶれを即座に修正する。

「やるじゃないか」

詩月が言うより先に、呟いたのはエィリッヒだった。

正直、貢の演奏がここまで劇的に変わるとは想像していなかったのだろう。