LIBERTEーー君に

「でもね。コンクールはエリザベートだけではないし、4年後 手を治して挑戦することもできるでしょ」

「あ……君が前向きで安心した」

詩月はハッとして息を飲んだ。


「君は強いな」

「強くならなきゃ、前を向かなきゃ、立ち上がれないもの」

詩月はずいぶん悩んだんだろうに、思うように弾けないのは辛いだろうにーーそれでも君は立ち上がるんだなと思った。

郁子の声は強がった空元気ではないなと感じられるほど、弾んでいた。

それは郁子の手の不調、コンクール延期に戸惑いと喪失感で、立ち止まっていた詩月の心を揺さぶった。

詩月はミヒャエルとのやり取りを思い出し、「何をやっているんだ僕は」と、情けなくなった。


バイト先から帰ると、詩月のスマホに理久から着信電話がかかってきた。

「ちゃんと食べてるか」

普段から食が細い詩月を心配した理久の定番挨拶だ。