LIBERTEーー君に

「……演奏者冥利に尽きる感想ですね」

「音楽は巧い技術ではない。伝える側、受け取る側に心がどう響くかだ。そう思わないかね」

「音楽は心、僕は師匠からそう教わりました。解ります」

男性は2度3度、頷いた。

「中で、生の演奏を聴かれませんか」

「生憎、入場券がない」

「許可証を持っています、一緒に」

男性の顔がパッと明るくなり、笑みが浮かんだ。

詩月はそっと男性の手を取った。

演奏会場の扉が開き、中からエィリッヒが忙しく出てきて、ロビーを見回した。

詩月が男性の手を取り、立ち上がったのを見付けると「居たか」と安堵した。

「詩月、そろそろだ」

「今いくよ」

男性の手がピクリと動いた。

「今、詩月と言ったかね」

男性は詩月の手をギュッと握りしめた。

「さあ、入りましょう」

詩月が男性の手を引き、ゆっくり歩き出すとエィリッヒが駆け寄り、男性に手を添えた。