LIBERTEーー君に

思い残すことは何もなかった。

会心の出来だったと心から言えるくらいに、歓喜していた。

一礼して、首筋に流れる汗を手で拭う。

審査員がおもむろに、口を開いた。

「どんな思いで演奏しましたか」

ミヒャエルは詩月が隣に並ぶのを待って、静かに答えた。

「クララに自分の気持ちを語り伝えるように弾きました」

「なるほど。ピアノ伴奏者、君は?」

「彼のシューマンの思いを受け止め寄り添い、激励したいと思いました」

「ヴァイオリンとピアノの語らいという点において、君たちの演奏は絶妙だった。苦悩するヴァイオリンと、それを包みこんだピアノ、申し分なかった」

「この後、第2番を演奏するコンテスタントは居ないので、今コンクール1番の第2番だった。ファイナルに期待する」

静かなセミファイナル通過の通達だった。

ミヒャエルが思わず胸元でガッツポーズした。