LIBERTEーー君に

詩月自身、日頃から気掛けて用心している。

だが。演奏に没頭すると、つい気が高ぶり自分の体力の限界を忘れてしまう。

「ミヒャエル、話しかけないで落ち着くまで背を擦ってやれ。お前は色々、言いすぎる」


詩月の耳にミヒャエルとマスターの声は届いているものの、詩月には口を出す気力もない。

郁子がコンクールに出場できないと伝えてきた後から、詩月は落胆と不安で気の浮き沈みが激しかった。

早目に、寝床についても眠りが浅いのか、何度も目が覚めた。

そこに来て、コンクールの突然の中止。

ミヒャエルの言うように、自棄を起こして無茶な練習もしていたのは、詩月自身が自覚していたことだ。

核心を突かれて、答えたくないと思ったのも正直なところだ。

ミヒャエルはしばらく無言で詩月の背を擦っていた。

詩月の様子が落ち着いたのを確認すると、溜め息混じりに「ゴメン、言いすぎた」とポツリ言った。

詩月はミヒャエルの顔を見上げ「ーーチルチルミチルか……考えてもみなかった」と呟いた。