LIBERTEーー君に

「詩月がシュテファン広場でピアノ演奏してるの、LIVEで」

ビアンカはスマホの画面を開いたまま、テーブルの上に置いた。

シュテファン寺院(大聖堂)前の広場、その中心にストリートピアノが設置してある。

ドイツの老舗ピアノメーカーフォリッヒ社のグランドピアノ(本社はウィーンにある)だ。

詩月がピアノを弾く傍らで、知らないヴァイオリニストが演奏していた。

曲はブラームス、ヴァイオリンソナタ1番「雨の歌」だ。

「何を考えている……」

ユリウスは眉間に皺を寄せていた。

詩月のピアノ伴奏は貢相手の演奏とは違っていた。

「ずいぶん派手な演奏をするヴァイオリン奏者だな。貢とは正反対だ」

「この曲の前にはブラームスのピアノ協奏曲を演奏していたみたい」

「まったく、夕方まではゆっくり家で休んでいろと言ったんだが」

ユリウスは動画を観ながら、長いため息をついた。