ーー周桜くん、貢のピアノ伴奏するんですってね

「そう、ブラームスコンクールで」

ーーえっと、ミヒャエルのピアノ伴奏もだよね

「曲は被らないんだ」

ーーそれはそれで、ハードでしょ?

「まあね、でも楽しいよ。気分転換にもなるし」

ーースゴいわね。周桜くんは只では起きないのね

郁子から詩月に電話がかかってきたのは、8月半ばだった。

郁子は横浜は連日、猛暑日でマスクを着用して外出するのが、暑さと息苦しさで鬱陶しいと話した。

ウィーンの8月の平均気温は20℃前後だ。

最高気温も27℃位で、にわか雨は多いが、まあまあ過ごし易い。

そう言うと郁子は羨ましいと言った。

新型ウィルスは全く終息の気配がない。

だが、新型ウィルスの特性なども解明されてきている。

「そうだな。黙って指を加えているのは嫌だな」

ーー貢が言っていたわ。周桜の演奏は変幻自在だ。毎回、真剣勝負だと