LIBERTEーー君に

あの時のピアノは詩月が強引に、貢を追い立てて煽って煽って演奏した。

にも関わらず、詩月の思惑は貢に届かなかった。

お前には負けなくないーー詩月はその意味を噛みしめる。

雨だ、偲ぶように啜り泣く雨だ、激しい雨ではない。

詩月は貢のヴァイオリンに寄り添う。

貢の「雨の歌」は詩月の解釈とは違う。

だが、貢のヴァイオリンはサロンで奏でた「雨の歌」とは明らかに違っていた。

解釈1つで、こんなに変わるものなのか?
意識1つで、こんなに違うものなのか?

詩月は貢の実力を見誤っていたと思った。

学オケのコンマスを高校、大学通しで3年勤めてきた実力は伊達ではない。

学オケを率いていただけある。

正確で丁寧な演奏、技量、どれをとっても1流だ。

オケを率いるために抑えてきた演奏に、自主性が加わった分、貢の演奏は深みが増した。