LIBERTEーー君に

郁子と理久が「詩月と弾いているから上手く聞こえる」と言っていたことが、間違いではなかったと思った。

ミヒャエルの癖のある演奏は、丁寧とか正確とか繊細とは言い難かった。

だが、貢は自分の演奏にはない華がある演奏だと感じた。

詩月が自分とは全くタイプの違うヴァイオリン奏者のピアノ伴奏を引き受けたこと。

それぞれセミファイナルの選択曲もバラバラで1つも被らない。

詩月が全6曲、貢とミヒャエルに合わせ楽譜の解釈をし、1人ずつに合わせたピアノ伴奏をやりきろうとしていること。

それだけでも、詩月がただ者ではないと思った。

貢は詩月が「周桜宗月Jr.」と呼ばれるのを嫌うけれど、まさにカエルの子はカエルだと思った。

貢とミヒャエルは演奏を終え、同時に「やるじゃないか」と言いながら握手した。

詩月は2人の演奏を聴き終えて、未だ改善点はあるし伸び代もあると思うと楽しくなった。