LIBERTEーー君に

「戦々恐々だな」

マスターが呟いた。

貢は何度も聞いた演奏だと思いながら、詩月との演奏とは違うと思った。

合わせる相手が違うと、こうも演奏が変わるものなのかと。

詩月から貢の演奏を聞かされていたミヒャエルは、詩月が弾いた貢の演奏が、まんざら間違っていなかったことに、驚いた。

詩月の弾いた貢の演奏はもっと大人しかったーー自ら主張しなかったーー。

何がどう変わったのか、どう心境が変われば、これほどぶつかってくるのか。

詩月と貢は昨日、楽譜を広げて1時間半以上も話し合っていた、あれが? 

ミヒャエルは貢が「周桜のピアノ伴奏に負けなくない」と言っていたのは聞いていた。

それだけで? と思うと、詩月が貢に何をしたのかが無性に気になった。

貢もミヒャエルの演奏が詩月と弾いていた時に比べると、どこか物足りないと感じていた。